FL Studioオンラインマニュアルの訳。
http://www.image-line.com/support/FLHelp/html/plugins/Sytrus_tutorial.htm
(訳注:このページの内容はリンク先の英語原文を訳しつつ若干加筆したものです。日本語版リテールBOXについてくる日本語マニュアルにも元の英文を翻訳したものがあります。このページのテキストは音楽と縁遠く生活してる人の訳なので用語の用法がおかしい可能性があります。短いので読めばすぐわかりますがSytrusチュートリアルというタイトルのわりに「最低限SytrusでFM合成して音を出すために必要な知識だけ」を扱ったドキュメントであって、網羅的なことは扱っていません)。

Sytrus Tutorial

FM音源での音作りは、普通のシンセサイザーユーザーにとっては何やら呪術的な秘儀であるかのように思われています。世界で初めて普及した商用FMシンセサイザーである「Yamaha DX-7」では、修理のためにメーカーに戻されたDX-7でプリセット音が出荷時の状態から変更されていたのは全体の10%ほどだったそうです。
Sytrusを使っていまこのドキュメントを見ているあなたは、Sytrusのプリセットを一通り眺めて「どうやってこんな多彩な音が作られてるの?」と思ったことでしょう。
もう一歩進んで、FM音源の使い方をインターネットで調べてみて、世の中にある情報の大半はYamaha DX-7やDX7的なシンセサイザーでの音の作例集ばかりで、「Sytrusで使えるFM音源の基礎知識」といったものはネット上で見つからないことに気がついたかも知れません。
このチュートリアルは、FM音源での音作りのナゾの一部を解き明かします。このテキストが、Sytrusに並んだナゾのボタンやツマミ群が何をしているのか理解するヒントとなることと思います。

オペレータ、モジュレーション・マトリクス、フィルタ

このチュートリアルはFMシンセサイザ「Sytrus」について書かれたもので、Sytrusのパネルの中でも特に重要なコントロールの意味を説明します。このチュートリアルは、Sytrusの各コントロールが音に与える影響を説明するものではありません。
このチュートリアルを読み進むことで、以下のことを理解できます。

  • オペレータとは何か
  • モジュレーション・マトリクスでのルーティング=オシレータ、モジュレータ、フィルタ、エフェクタ、出力の繋ぎ方
  • オペレータにフィルタを適用する方法
  • FM音源と減算式音源の違い

Step 0:減算方式合成の基礎

単純な波形から始めて、フィルタやエンベロープを適用して最終的な音に「エフェクト」を与えていく、という音作りの考え方は、FM音源を理解するとっかかりとして重要です。多くの減算式シンセサイザでは、画面上に並んだつまみを適当にいじって音が変わっていく様子が経験できます。FL Studioに付属する「3xOSC」や「TS404」といった、より限定された機能のシンセサイザは、そういった経験を積むのに最適です。それらのシンセサイザで、「oscillator(オシレータ), LFO(LFO), cutoff(カットオフ周波数), ADSR(アタック、ディケイ、サスティン、リリース)」といった基本的な用語に慣れ親しんだら、いよいよSytrusに取り掛かりましょう。

Step 1:Sytrusの画面に並んでいるものは何か

  • 1.1 Sytrusの準備
    Sytrusのチャンネルを追加します(訳注:FL Studio独特な表現ですが要は「SytrusをDAWから使える状態にする」ということです)。Sytrusのパネル左上にある"plug"をクリックして"Default"パッチを選択します(訳注:Sytrusがロードされた時点でロードされてるのはDefaultパッチじゃないです。FL Studioだと「画面左上の下向き三角▼のとこのメニュー」とか「画面右上の<>」みたいなのとかで、とにかく「Default」という名前のpatchを選択します。「patchって何よ?」という人はとりあえず「音色のこと」と思っとけばいいです)。このパッチは純粋なサイン波を出力するものです。この段階では画面右の9x9マスのマトリクスコントロールは気にしないでください。
  • 1.2 「MAINパネル」を眺める
    画面左上の"MAIN"ボックスをクリックして、シンセサイザ全体の設定を見てみましょう。ここで見られるパラメータはsynth/filter/pan/fxの各モジュールが出力する信号を操作するものです。ここでは、Sytrus全体の音量、フィルタエンベロープ、簡単なEQ、ユニゾンの効果のほか、x/yモジュレーションコントロール(専用画面やジョイスティックやスライドパッドから入力するデータ)がどのパラメータを操作するかといった設定が行われます。
  • 1.3 「OP 1パネル」を眺める
    画面情報の"OP 1"ボックスをクリックします。このパネルでは"Operator #1"を定義します。オペレータは、音の波形、音声信号を表します。ボックスの左上にあるのが振動の一周期の波形です。波形の右にあるスライダやツマミでは、波形の性質を変更することができます。横に並んだ"PAN"、"VOL"等のボタンも、波形の性質を変更するためのものです。"OP 2"から"OP 6"の5つでは、"OP 1"と同様に波形の定義を行えます。
  • 1.4 「FILT 1パネル」を眺める
    画面上方の"FILT 1"ボックスをクリックします。このパネルが定義するのは"Filter #1"です。このパネルと横に並んだボタンは、フィルタの性質を指定するものです。フィルタは、オペレータからの出力に対して適用されます。"FILT 2"、"FILT 3"も同様にフィルタの定義を行うものです。
  • 1.5 「FXパネル」を眺める
    画面上方の"FX"ボタンをクリックします。このパネルでは、パン、コーラス、ディレイ(三種)、リバーブを定義します。

(訳注:ここまではStep 0で3xOSCに慣れてればぜんぜん怖くないですね!本題はここからだよ!)

Step 2:「減算式音源」としてのSytrus。その1)まずはノコギリ波を出力する

Sytrusというシンセサイザープログラムを理解する第一歩として、ここではSytrusが「減算方式シンセサイザー」としてどう動くかを見てみましょう。これはStep 0で触ってみた3xOSCやTS404でやったことの延長です。道に迷う前の備えに、まずわかる道を確認しておきましょう。

  • 2.1 「OP 1」の波形を「ノコギリ波」に設定する
    "OP 1"パネルを開いてください。画面左上の「波形ディスプレイ」を確認して、その右にある"SH"スライダーを動かしてみます。スライダーを上に動かすと、波形が「サイン波⇒三角波⇒ノコギリ波⇒矩形波⇒パルス波」と変化してきます。"SH"スライダーを中央(50%)にセットして、ノコギリ波にしてください。鍵盤を叩いて音を確認しましょう。高音部までぎっしり詰まった、ブザーのような「ノコギリ波」の音が聞こえるはずです。
  • 2.2 「OP 1」の生成した波形は「OUT」に繋がっている
    画面右のモジュレーションマトリクスを見てください。(今使っているはずの)「Defaultプリセット」では、モジュレーションマトリクスでアクティブなツマミは一つだけ。「OP1行OUT列」のツマミが「右一杯の100%」になっています。これは、「OP1の出力が、Sytrus全体の出力へ、最大ボリュームで送られる」という意味になります。OUT列(モジュレーションマトリクスの右端の列)の、上から6つのツマミは、OP1からOP6の出力がSytrusの出力へどのような強さで送られるかを示しています。その下の3つのツマミは、Sytrusが持つ3つのフィルタ(FILT 1からFILT 3)の出力が、それぞれどのような出力でSytrusの出力へ送られるかを示しています。
    OPPNFXOut
    F1
    F2
    F3

Step 3:減算式音源Sytrus。その2)基本的なフィルタ・エンベロープ

  • 3.1 「OP 1」からの出力を切って「F1」からの出力に変える
    OP1で作ったノコギリ波にデフォルトフィルタを掛けて加工してみましょう(訳注:確認。ノコギリ波にいろいろなフィルタを掛けて目的の音を作るのが減算式音源のやり方です)。
    まず、「OP1行OUT列」のツマミを右クリックしてミュートします。この状態で鍵盤を叩いてもSytrusから音は出ません。「OUT列」のツマミが最低一つはアクティブになっていないと、「Sytrusの出力」に何も送られないためです。
    では、「F1(FILT 1)行OUT列」のツマミを右に全開(100%)にしてください。やはりこの状態で鍵盤を叩いてもSytrusから音は出ません。フィルタ1(F1)の出力はSytrusの出力に100%送られていますが、フィルタ1自体に何も入力されていないため、結局、フィルタ1が何も出力していないためです(訳注:この場合、端的には「OP 1でさっき生成したノコギリ波がF1(FILT 1)に繋がっていない」=「F1に何も入力されていない」ということです)。
    OPPNFXOut
    F1
    F2
    F3
  • 3.2 「OP 1」の出力を「F1」に送る
    今回は「OP1で作ったノコギリ波にフィルタを掛けたい」ので、「F1行OP1列」のツマミを右へ全開(100%)にしてください。これで「OP1の出力」が「F1(フィルタ1)」に送られます。そしてフィルタ1を通って加工された「元ノコギリ波だった信号」は「F1行OUT列」のツマミが100%になっているため、「Sytrusの出力」へ送られます。この状態で鍵盤を叩いてください。フィルタ1に設定してある「デフォルトフィルタで加工されたノコギリ波の音」がSytrusから出力されます。「安物のラッパのような音」……といったところでしょうか。
    OPPNFXOut
    F1
    F2
    F3
  • 3.3 F1(フィルタ1)の設定を変えてみる
    フィルタ1に設定してあるデフォルトフィルタを変更してみましょう。ここではカットオフエンベロープを変更してみます。まず画面上部の「FILT 1ボタン」をクリックしてフィルタ1の設定画面を開きます。画面中ほどの「CUT」ボタンをクリックして、さらにその下の「ENV」ボタンをクリックしてフィルタ1のカットオフエンベロープを開きます(訳注:ここで表示される「爪」みたいな形をしたのがデフォルトのエンベロープです)。
    エンベロープのグラフの左下に「ATT, DEC, SUS, REL」と書かれた4つのボタンが並んでいます。これらはそれぞれエンベロープのADSR(アタック、ディケイ、サスティン、リリース)に相当するものです。
    4つのツマミの左にある丸いボタン(Enable envelopeボタン。OSからは多分ラジオボタンとかトグルとか呼ばれるタイプのボタン)があります。このボタンは、このエンベロープが適用されるかどうかを決めるスイッチで、デフォルトはオフになっています(訳注:さらっと書いてますがエンベロープのオンオフスイッチはFL Studio全体で通用するわりに見落としがちな超絶重要項目です)。このスイッチをオンにして、カットオフエンベロープを有効にして、鍵盤を叩いてみましょう。さっきの「安物ラッパ」の音がカットオフエンベロープで加工されて出力されます(訳注:「カットオフ」になじみがない人は、Wave Candyなどでスペクトルを見ながら音を出すと何となく意味がわかると思います)。先ほどのATT、DEC、SUS、RELツマミをいろいろ動かして、このエンベロープがどういう効果を生むか試してみましょう。
    (訳注:ここまでが「減算方式」のおさらいです!Sytrusの本領「FM方式」はここからですよ!)

Step 4:モジュレータ入門……の前に

基本的に2つの波形を魔術的に組み合わせると「リッチなスペクトル」が得られます。これがFM方式の特徴です(訳注:すごいいい加減な表現!ですが、原文がそういうニュアンスです。「オシレータ2つあればFMできる!」、「FMで作った音はなんかかっこいい!」という以上の理解をしてる人は地球上に存在しないと言っても過言ではありません。言い過ぎですが)。
いよいよSytrusが本領発揮するFM方式の話になるんですがその前に一つだけ。FMのMは「モジュレーション」のMなわけですが、

2つのオペレータOP1, OP2があるとして、

  • 「OP1でOP2をモジュレートする(OP1*OP2)」のと
  • 「OP2でOP1をモジュレートする(OP2*OP1)」のと

では全く違うスペクトルが得られる。ということだけ覚えておいてください。
Sytrusにおいて「OP1行OP2列のツマミとOP2行OP1列のツマミの効果は全然違ったものになる」というのと同じ意味です。

Step 5:FM音源Sytrus。簡単なモジュレータ操作

  • 5.1 とりあえず最初の「ノコギリ波を出力する状態」に戻す
    「F1行OP1列」を右クリックして無効化します。「OP1行OUT列」を右クリックして、アクティブに戻します。これでOP1で生成した音がOUTに送られ、最初に聞いた「フィルタしていないノコギリ波=ブザーのような音」の状態に戻りました。
    OPPNFXOut
    F1
    F2
    F3
    (訳注:「F1行Out列」はこの時点で「F1への入力がない」のでどういう状態でもいい。が、6-2でで使うのでほっとく。)
  • 5.2 ノコギリ波に「モジュレーション」をかける
    ノコギリ波に「モジュレーション」をかけます。やっと「FM」するとこまで来ました。ともかくキーを叩いて「今の音」を確認しておきましょう(訳注:「ブザーのような音」ですね)。さて。「OP1行OP2列」のツマミを、まずは25%にして、キーを叩いてみてください。ブザー音が変化したのがわかるでしょうか?さらにこのツマミを50%にしてキーを叩いてみましょう。さらに音が変化しています。75%、100%と変えて、キーを叩いてみましょう。
    おめでとうございます!FM方式を利用したSytrusパッチ(音色)の完成です!
    OPPNFXOut
    25-
    100
    F1
    F2
    F3
    (訳注:何が起こってるかわかりませんか?大丈夫です!私もわかりません!誰もわかりません。「Sytrusで最低限こうすれば音が出る、そして、こうすればなんか音が変わる」というとこまでわかればいいです。「こうするとジャラジャラする」。「やりすぎるとわけがわからなくなる」。それこそがFM音源です。と個人的には思います。まじめに考えたい人は「周波数変調」とかぐぐって途方にくれて挫折感を味わうのがお勧めです)

Step 6:次はフィルタ操作

  • 6.1 FM合成で生成した音にフィルタをかけて……アレ?
    ここまででFM変調で音を出すことができました。今度はこれに、フィルタを適用してみましょう。「OP1行OUT列」を右クリックして無効化します。「F1行OUT列」はアクティブにします。ここまでの手順に従っていればアクティブになっているはずですが、無効化されていたら今ここで右クリックしてアクティブにしてください(訳注:そして100%にしておきましょう)。「F1行OP2列」のツマミを100%にします。この時点で、キーを叩いて音を確認してください。アレ?ノコギリ波やさっき作ったFM変調された音ではなく、単純なサイン波のようですね。何が起こったのでしょう?
    タネを明かすと何でもないです。今やった設定は、「OP2の出力」を「フィルタ1」に出力しただけです。OP2の設定はSytrusのデフォルト状態のままで、フィルタも通っていないサイン波です。OP2が生成した信号はそのあとフィルタ1を通っていますが、これもサイン波です(訳注:大雑把に言うと「カットオフフィルタ」の設定が「ノコギリ波には作用するけどサイン波には作用しない」からです。多分)。今回やりたかったのは「OP2で変調したOP1の出力をF1フィルタに送る」ことだったはずです(モジュレーションマトリクスのややこしいところですね!私もそう思います)。これは、Step4で触れた「OP1*OP2とOP2*OP1は違うスペクトルになる」という話ともちょっと関係します。ともかく、今やろうとしているのは「OP2で変調した、OP1の出力を、F1フィルタに送って、OUTから出力する」ことなので、F1フィルタに送るのはOP2の出力ではなく「OP1の出力」の方、つまり、使うべきツマミは「F1行OP1列」のツマミだったわけです。
    (訳注:「いまのは悪いお手本!」、「間違えやすいところだから、わざと間違えて見せてあげたんですからね!」)
OPPNFXOut
25-
100
F1
F2
F3
  • 6.2 今度こそFM合成で生成した音にフィルタをかけてみる
    そんなこんなで今度こそ「OP2で変調したOP1の出力をF1フィルタに送る」としましょう。さっき設定して失敗した「F1行OP2列」のツマミを、右クリックして無効化します。ここまでの手順で無効化状態になってるはずの「F1行OP1列」のツマミは、右クリックして有効化します(訳注:なってなければ100%にしとくと良いでしょう)。これで「OP2で変調したOP1の出力をF1フィルタに送る」ことができたはずです。キーを叩いて音を確認してください。
    OPPNFXOut
    F1
    F2
    F3
    (オマケの訳注:今回のは「OP1行OP2列、「F1行OP1列」、「F1行OUT列」の3つを使ったわけですが、「OP2行OP1列、「F1行OP2列」、「F1行OUT列」の3つを使うと「OP1でOP2を変調した出力にF1フィルタをかけた音」になります。OP1*OP2がOP2*OP1と違う出力になる様子がわかるんじゃないかと思います。どっちの表記がどっちか知りませんが!)

Step 7:FM合成と減算式合成の違い

減算式合成
減算式合成は、あらかじめ用意された「倍音が豊かな波形(三角波、矩形波等のような)」にフィルタを適用する仕組みです。高周波成分は、元となる波形に由来します。

FM式合成
FM式合成では「変調」を通じて得られる「サイドバンド(訳注:説明にもなりませんが「変調によって新たに生成される波形」のことです。日本語では側波帯とかいうらしいです)」によって豊かな倍音成分を持つ信号を「作り出し」ます。

違いはこれだけ、です。
フィルタ、エンベロープ、モジュレータといった音作りの要素はどちらのタイプのシンセサイザーでも使われるもので、Sytrusも「モジュレーションマトリクス」さえ理解したら、あとは実践あるのみです。
直観的とも言える減算式合成と比較すると、FM式合成は確かにとっつきにくく見えます。生成される「サイドバンド」は、三角波や矩形波のように「視覚化」しにくいものです(訳注:三角波や矩形波というのはそもそもオシロスコープで見た波形が三角とか矩形(四角)に見えるからそういう名前になってます)。
FM式合成をするシンセサイザは、しばしばより複雑なエンベロープやオートメーション機能が利用できます(Sytrusの「Electrocutionプリセット」のフィルタなどは最たるものです)。これらは音に複雑さを与える一方、とっつき難さの原因ともなっています。


Tutorial credits: Eric Mitchell(英語原文)


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Last-modified: 2014-09-30 (火) 03:05:42 (3499d)